フルーツスープ

久しぶりに短いのを書きました。読んでみて下さい。


フルーツスープ
 「冷蔵庫が不気味なのは、どこにも影が発生しないからじゃないかな。」と僕が言うと、彼女は「何を言ってるの?あなたが冷蔵庫の影なのよ。」と答えた。「スーパーや百貨店の影の人もいるし、そのことを考えたら、家庭用冷蔵庫の影くらいがちょうどいいと思うよ。」なるほど、それを聞いて僕はとても気が楽になった。
 山からポンジュースがやって来た。「雨が何を集めようとしているのか分かりましたよ。バケツラジオです。バケツラジオとは、あのたまにバスの上についてるバケツのことです。」「ちょっと待って、そんな上にバケツがついてるようなバスみたことないよ。」「いえ、10台に1台はバケツをのせてます。あなたが見たことないだけですよ。」
 「バケツラジオは、運転手があのバケツに雨粒があたるドスッという音を楽しむためにつけられています。」「ドスッ?どっちかというとボタッとかじゃないの?」「まあなんでもいいです。」
 そのバケツがついているというバスに限らず、バスの座席にはすべてしっかり固められたバターと、そしてナイフが入っている。バスの座席は、そのバターの堅さに合わせてつくられていて、あの独特の座りごこちをしているのだ。バケツラジオがなくなると、そのバターが溶けてしまい、中からナイフが飛び出して危険だという。だいたい世界中のバスは溶けることを欲していて、バスの運転手の精神を落ち着かせ、バスのバターが溶けないようにするためにラジオがつけられているのだという。
 「私はちょっと変身しないといけない。」とポンジュースは言った。ほほにするのに桃が、イヤリングにするのにメロンが欲しい、という注文だった。彼女はかなりの大女だったが、それでもメロンはおおきすぎた。「メロンよりもサクランボが素敵なんじゃないかな。」そんなことを言いながら僕はポンジュースを雨との対決の準備を手伝った。
 雨が降ってきた。かなり大粒の雨だ。りんごはだんだんと寒さを増してきた。あの人は鉛の上から眠っている。僕は透明な月を膨らませる。
 その後、バスが消えてなくなったとか乗客がけがをしたというニュースは聞かなかった。ポンジュースはうまくバスを走らせているらしい。僕は一度バケツのついたバスを探してみようと思って街に出た。しばらくバス停にいて、やってくるバスを観察したが、それらしいバスはない。おかしいな、と思ってバスターミナルにも行ってみたが、バケツをてっぺんにつけているようなバスはない。きっと今日はバケツ付きのバスは出庫してないのだろうと思い、僕はしかたなく一台のバスに乗った。バスの外側にはポンジュースの広告がプリントされていた。
 バスがどこかのバス停に止まったとき、どこからかドスドスッという音が聞こえた。びっくしりて顔を上げると、誰かが次々バスに果物を投げ込んでいた。僕は座席からナイフを取り出し、イチジクとりんごを食べた。そして僕の光は、冷蔵庫ではなくなった。 終

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